一周年記念SS

Morning glow


 こちらは一周年記念SSです。
 楽しんでいただけましたら幸いです。


 人は誰でも、愛する者にしか見せないもうひとつの姿を隠し持っている。
 傍から見た君達は、誰も割り込めないほどに深く繋がっていた――


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ネスの場合

Watcher:Kirby

 ピーチ姫が作ってくれたケーキ、美味しかったなあ。やっぱり乱闘の後のおやつはカクベツだよね。
 ゴキゲンなボクの足は自然と屋敷の外、庭の方へと向かっていた。空はボクの心と同じくらい晴れ渡っていて、絶好のお出かけ日和。
 さてと、今日は何をしようかな。誰かを誘って遊ぶのもいいかも。背伸びをしながらそんなことを考えていた時だった。

「ちょっ、待って……っ」

 微かな声が耳に入ってくる。これは多分ナナシの声かな。耳を澄ませてみると、それは裏庭の方から聞こえてきていた。
 興味が沸いてきたボクは、声のする方へと向かうことに。曲がり角まで来ると、さっきよりもはっきりと聞こえてくる。

「誰か来たらまずいってば……!」
「大丈夫、誰も来ないから……ね?」

 今度はネスの声もしてきた。なんだか不穏な会話をしているような。そっと角の向こう側を覗くと、そこにはネスに抱きしめられているナナシの姿。
 彼女はほっぺを赤くしていて、ネスはそっと顔を近付けると口をくっつけていく。
 あれってもしかして、"ちゅー"というものをしているのかな。二人が付き合ってるのは知っていたけど、この目で見るのは初めてだからびっくりしちゃった。
 それにしても今のネスの横顔は、いつもと違って大人らしく見える。あんな顔、初めて見たよ。
 ずっと見てるのも悪い気がして、そっと離れようとした時――ネスの瞳がすい、とこちらに向いた。
 彼の目は意味ありげに細められていたものの、すぐにナナシの方に視線を移す。まずい、見ていたのがバレちゃった。
 とにかく今は逃げよう。慌てて走り出したボクの頭の中に、突然声が響いてくる。

"今見たことは誰にも言わないこと。いいね、カービィ?"

 それは紛れもなくネスのもの。テレパシーを使っているんだ。こんなことを誰かに話したなら、ネスに乱闘で何をされるか分かったもんじゃない。
 言われなくたってヒミツにしておくから安心してよ!

リュカの場合

Watcher:Wii Fit Trainer

「はい、ゆっくり背筋を伸ばしましょう!」

 私はWiiFitトレーナー。皆さんは私のことを"フィットレ"と呼びます。
 今日は週に一度の休日。今はリュカ君とナナシさんにお願いされ、ストレッチの特別講師をしているというわけです。
 二人共一生懸命に励んでいて、とても微笑ましい限りです。そうだ、折角なら二人組でできる体操にも取り組んでみましょうか。

「フォームが綺麗に整えられてきましたね。さて、体も温まってきたところですし、二人でできる体操にもチャレンジしてみましょうか!」
「えっ、ふ、二人で……!」
「それって、つまり……僕とナナシで、ってこと?」

 途端に慌て出す二人。よく見れば頬がほんのりと赤くなっていますね。これは血行が良くなったから、というだけではなさそう。
 なるほど、そういうことですか。ここから面白くなりそうです。

「勿論ですよ。ではまず向かい合って体育座りをしてください。それから、両腕を前に伸ばして手を繋ぎましょう」

 リュカ君達はもじもじとしながらも向き合うように座り、そっと手を繋ぎました。指示通りの姿勢をキープする二人。
 真っ赤になった顔を俯かせて、なんとも甘酸っぱく可愛らしい光景ですね。私、なんだか別の意味で楽しくなってきました。

「そのまま背筋を伸ばした状態をキープしつつ、ゆっくり前後に押したり引いたりを繰り返してみましょう」

 二人は戸惑いながらも言われた通りに動き始めました。ナナシさんは恥ずかしさを堪えるように目を瞑り、リュカ君はそんな彼女を真っ直ぐに見つめています。
 その間もしっかり指を絡み合わせている所は大変いじらしく、見ている私も頬が緩んでしまいそう。
 それにしても、リュカ君は普段から大人しい子だと思っていましたが、しっかり"男の子"としての一面も磨いているようです。
 ナナシさんも見ての通りですし、二人の距離が縮まるのももうすぐ――かもしれませんね!

リンクの場合

Watcher:Toon Link

「いい汗かいたけど、お腹もすいてきたなあ」

 今日は日曜で乱闘はない。その代わりマルス兄に剣の稽古をつけてもらった。適度に剣を握っていないと、感覚が鈍る気がして落ち着かないからだ。
 トレーニングルームの前でマルス兄と別れた後、ボクは食堂を目指す。体を動かした後はご褒美として美味しいおやつを食べる。
 皆からは"カービィみたい"と言われるけど、これがボクの"一日の楽しみ"なんだ。
 廊下を進んでいると、開かれた窓から甘い香りが漂ってくる。外から匂ってくるということは、リンク兄が恒例の"おやつタイム"の準備をしているのかも。
 たまに試合がない日は、裏庭でリンク兄がおやつを作っていることがある。それがまた絶品で、ボクはそれを目当てに通うこともあった。
 ボクの予想通り、裏庭に近付くと物音が聞こえてくる。いつもと違うのは、それには話し声も混ざっているということ。
 鋭い声色からして穏やかな様子ではないけど、一体何事だろうか。

「なあ、やっぱり皆に"マモノエキス"の良さを知ってもらうべきだと思う。こんな唯一無二のスパイスが食の歴史に埋もれてしまうのは実に惜しい」
「そんな得体の知れないもんさっさと埋もれてしまえ! この前それ混ぜたスープ飲まされて丸一日寝込んだんだからね!?」
「スープとは相性が悪かったってことで。次はケーキで試してみたらイケそうじゃないか? 今回も一緒に試食しようよ」
「する訳ないでしょ! 断固、阻止!」

 覗き込んだボクの目に飛び込んできたのは、いつもの大鍋の前で紫色の小瓶を奪い合うリンク兄とナナシの姿。
 どこか気味悪さを放つあれを、料理に混ぜるかで揉めているらしい。それにしても、戯れあっているように見えるのは気のせいか。
 リンク兄なんてあんなに楽しそうに笑っているし、追いかけるナナシの瞳もきらめいていて――傍から見たらカップルにしか見えない。
 このまま二人の空気に割って入るのも気が引けるし、やばそうなケーキの試食は避けたいところ。
 仕方ない、今日のおやつは諦めよう。ボクは気配を殺してその場を後にした。

ピットの場合

Watcher:Palutena

「さて、お仕事もひと段落つきましたし……暇になってしまいましたねえ」

 先程、女神としての"役割"をひとつ片付けた私。今日は休日ということで試合が組まれることもありませんし、退屈になってしまいました。
 ですがこういう時だからこそ、できることもあるのです。"女神"である私と"部下"であるピットの間でこそ成せる、ひとつの戯れ。
 確か今の時間帯、彼は自分の恋人と過ごしているはず。どこまで進展できているのか、たまには見ておきたいものです。
 上司として心配ですから、少しだけ除き見させてもらいますね、ピット――

 目を閉じて集中し、ピットの視界に意識を重ねていく私。瞼を開けると広がっていたのは草原。頭上には風に揺れる枝葉。なるほど、大木の下にいるのですね。
 視界は左の方に向き、彼の恋人であるナナシの姿が写りこんできました。どうやら彼女に寄り掛かられているみたいです。
 誰もいない大自然に包まれながら、二人きりで過ごすなんて。何とも素敵なシチュエーションではありませんか。

「ナナシ、もっと寄りかかっていいよ」
「ん……ピット、あったかい」

 あらあら、肩を抱き寄せるなんて。以前よりも男らしく積極的になったみたいですね。ナナシもうっとりとした顔で頬を寄せちゃって。

「ナナシの匂い、すごく好き……」
「ちょっと、くすぐったいってば……っ」

 呟きながらナナシの首筋に顔を埋めるピット。流石にここまでくると、覗いてる身としては居た堪れなくなりますね。まあ、まだ見てますけど。
 やがてピットの右手がナナシの頬に添えられると、再び視界が一面肌色に――あら、一瞬で真っ赤に染まっちゃいました。

「ふう、ご馳走様。本当に君の唇って、クセになりそう」

 全く、私こそ"ご馳走様"ですよ。最初から心配する余地すらなかったというわけですね。
 部下の恋愛事情は存分に楽しませていただきましたし、覗くのもここまでにしておきましょうか。
 ナナシのことを末永く大切にするんですよ、ピット――

ブラピの場合

Watcher:Dr.Mario

 週明けの午後。この医務室にひとりの使用人が運び込まれた。名をナナシという。
 突然"この世界"に迷い込んだところを屋敷の主であるマスターに拾われ、使用人として働いている少女だ。
 なんでも最近は忙しかったらしく、倒れた原因は"過労"によるものだった。しばらくは絶対安静ということで、数日の間休暇を取らせることに。
 慣れない環境下で本当によく頑張っていると感心するが、張り切りすぎるのも考えものだ。書き上げたカルテをデスクの引き出しにしまおうとした途端――後方の扉が勢いよく開け放たれた。

「ナナシ……! アイツはどこだ? ここに運び込まれたはずだ、教えろマリオ!」

 焦慮に駆られた声とともに飛び込んできたのは、天使ピットと瓜二つの容姿を持つ少年ブラックピット。
 額に滲んでいる汗や息を切らしている所を見るに、試合が終わると同時に駆け込んできたんだろう。
 彼がここまで取り乱すのは珍しいことだ。私は椅子から立ち上がり、カーテンがかかったベッドを指す。

「まずは落ち着くんだ。彼女ならそこのベッドで休んでいる。静かに近付いてくれ」

 ブラックピットは先程とは打って変わり、恐る恐るといった様子で歩を進める。カーテンにかけた手は少し震えていて、普段の姿からはかけ離れたものを私に見せていた。
 やがて彼はそっと中の様子を窺うように覗き込むと、横になっている彼女の姿をしきりに確認していた。

「そこまで深刻な顔をしなくていい。疲労が溜まっていただけだよ。数日安静にしていればまた元気になる」
「……ったく。こんなになるまで無茶しやがって。オレの前では強がってたくせによ」

 安堵したのか、ブラックピットの口から小さく吐かれた言葉。それは紛れもなく本音だっただろう。
 柔らかに細められた瞳が、彼の心情をそのまま物語っていたからだ。
 黒に染められた器の中は、彼女への"想い"で満たされている――私はそう確信していた。

ソニックの場合

Watcher:Fox

 日曜の朝。屋敷の四階、東バルコニー。梯子を屋根の縁にかけ、工具セットを片手に登る。
 目的はアンテナの修理。瓦の修繕とかなら使用人に任せているんだが、専門知識が絡むとなると屋敷の住人の間では真っ先にオレの名が挙がる。
 "こういう時のトラブルにはフォックスが適任"だと。オレは日曜大工じゃないんだぞ、全く。
 溜息とともに屋根に上がれば、誰かの声を拾った耳がピン、と立つ。これは下からじゃなく、オレと同じ高度にいるものからだ。

「良い風が吹いてくるね。天気もいいし」
「な、屋根に上がるのもいいもんだろ?」

 音を立てないよう近付き、声の主の姿を確認する。屋根の棟から顔だけを出してみると、僅か二メートル程前方にソニックとナナシが腰掛けていた。
 意外な組み合わせだと思いつつ、何故だか声をかけるのを躊躇わせる。二人の背中からはそんな雰囲気を醸し出していた。
 腕が触れ合うほどの至近距離。手元を見れば、二人の指が絡み合っている。そういうことか――ソニックは何にも縛られず、縛ることもない。
 どこまでも自由なヤツだと思っていたが、知らないところではしっかりと地に足をつけてたって訳だ。

「私さ、ソニックといるようになってから……高い所が好きになったんだ」
「それなら今度は此処よりもっと高いところに連れて行ってやるよ。オレの飛行機でな」
「へえ! ソニック、飛行機持ってるの?」
「ああ、今は友達の工房に預けてるけど。オレに似てクールな、自慢の機体なんだぜ」

 ソニックも飛行機を所有しているとは。走ることに心を置いている彼にしては、これまた意外なステータスじゃないか。
 その上話の流れで自然に空のデートへ誘うとは、なんともスマートなやり方だ。

「いつか乗せてよね!」
「それじゃ、約束だ」

 そう言って二人は小指を絡ませ、互いの額を合わせる。やはりその距離感は友情ではなく――男女のそれというか。
 なんだか居た堪れなくなり、そっとこの場を後にする。その直後、背後から"他にも見せたい奴がいるしな"と聞こえたのは決して聞き間違いではないだろう。

レッドの場合

Watcher:Pikachu

 今日はとっても良い天気。暖かくて、風も穏やか。こんな日は中庭の木の上でお昼寝をするのが楽しみだったりする。
 乱闘のノルマも午前中でこなせたし、特には予定もない。このまま眠気に任せて目を閉じよう。なんて思っていたら、二人分の足音が近付いて来る。
 誰かな、と下を覗き込むとそこにはレッドとナナシの姿。レッドも午前で試合を終わらせたみたいだ。ナナシも作業着姿じゃなくて私服だし、今日はお休みなのかな。
 それにしてもあの二人、最近はいつも一緒にいるんだよね。いつの間に仲良くなったんだろう。
 レッドはぼく達ポケモンといる時以外はほぼ無口だし、ナナシは逆に誰とでも明るく接するタイプだから意外。
 接点があるとすれば、二人共ポケモントレーナーであることぐらいかな。そんなことを考えている間にレッド達は木の根元にあるベンチに腰掛けていた。

「今日は過ごしやすくて良いね! 日々の疲れも癒されてくもん」
「確かに……風が気持ちいい」

 軽く背伸びをしているナナシと、静かに目を閉じているレッド。こうして見るとあの二人、性格こそ正反対だけど、並んで座っていると絵になるなあ。

「そういえば今日のピカチュウの試合見た? ルイージさんやフォックスの間を縫うように走り抜けてくところとか凄かった!」
「見たよ。ピカチュウもこの"スマッシュブラザーズ"では古参だ。いつ戦っても冷静に立ち回ってる。だけどあの強さの秘訣はそこだけじゃないはずだ」
「えっ、他にもあるの?」

 思わず枝から落ちそうになった。だって、突然ぼくの話題が上がるんだもの。もうひとつ驚いたのは、あのレッドが人に対してここまでよく喋るなんて。
 きっとナナシの存在そのものがレッドの気質に上手く噛み合っている、とかかな。これはぼくの憶測でしかないけど。
 よく見れば二人共、腕がひっつくくらい身を寄せ合っている。なのにお互い意識している様子はなくて。
 これが二人にとって自然体なのか。なんだかもどかしいなあ――なんて思いながら、ぼくはそっと目を閉じた。


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