3rd.リクエスト2

Morning glow


Sweet Drop

 馴染みの街道は麗らかな陽気に包まれていて風も穏やか。日曜日ということもあり人々の活気で彩られていた。そして私は今、恋人であるソニックとデートの真っ最中。
 こうして歩いている時も互いの手は緩く重ねられていて、そこから伝わる彼の温度が染み込んでくる。

「久しぶりのゲーセン楽しかった! ソニックってゲームも得意なんだね」
「まあな! たまにテイルスがゲームとか作ってて遊んだりしてたからさ」

 普段はクールに努めているソニックだけど、こうして無邪気に笑う所も大好きで。彼の様々な一面を見付ける度に、この想いがより色濃くなっていく。
 しかし浮かれていた私の心を掻き乱すかのように、突如腹の奥から波打つような重低音が響いてきた。
あ、これは完全に聞こえてますね。このナナシ一生の不覚。

「うわっ、恥ずかしい……!」
「なーに、身体は正直なもんさ。そろそろ昼飯食いに行こうぜ」

 思わず両手で顔を覆う私の背をソニックは軽く叩くと、自然な流れで先導するように歩きだす。普段の彼は風のように自由奔放だけど、時折こうして紳士的に振る舞ってみせるのだから本当にズルい。
 そんな私を他所にソニックは"行き付けのバーガーショップでいいか?"と、こちらに振り替えると同時に突然足を止めた。彼が見つめる先には一件の建物があり、看板には"CHAO GARDEN"の文字とコーヒーカップ、マスコットらしき水色のキャラクターが描かれている。多分カフェとかその類だろうか。

「あの建物がどうしたの?」
「へえ、"この世界"にもいたのか……ナナシ、飯はあそこにしようぜ」

 ソニックは何か呟くと楽しげに笑みを深め、戸惑う私の手を引いてその建物へ歩を進めた――

***

「はあ、どの子も可愛い……!」
「ナナシはチャオを見るのは初めてだったよな?」
「うん、前にソニックから話だけは聞いてたけど……実際に見たら想像以上に可愛いね」

 このカフェは"チャオ"という生物とふれ合いながら美味しいグルメも楽しめるという、所謂動物カフェのような店だ。
 このチャオというのがとても愛らしく、頭部が雫のような形をしていて身体も丸くぷっくりとしており、歩く度にぷるぷると揺れる姿は何とも癒される。
 極めつけは頭の先端に浮いている"ポヨ"と呼ばれる小さな球体で、これはチャオの感情を表す部分。嬉しい時はハートの形になり、何かに興味を持つと"?"の形に変化するのが面白く、ずっと眺めていられる。
 ソニック曰く、元は彼のいた世界に生息しているとのことで"この世界"で見かけた時は驚いたそうだ。

「元々チャオの棲める場所は限られててな。安全で澄んだ水がある所じゃないといけないんだ」
「そうなんだ……」

 思っていた以上に繊細な生き物だということを知り、私は膝の上に乗せていた子をそっと腕で包み込んでみた。
 するときょとんとした顔で見上げてきたので、緩んだ頬をそのままに笑いかける。少しひんやりとするけど、確かに感じる命の温もり。
 ふと視線を感じて顔を上げると、こちらを見つめていたソニックと目が合った。彼の肩が一瞬跳ねたように見えたのは気のせいだろうか。

「ソニック、どうかした?」
「いや……お前、そんな顔もするんだなって」

 "そんな顔"とは一体。どういう意味かと訊ねるも、無言でメニュー表を差し出されたことで有耶無耶になってしまった。しかしソニックのことだ、追及した所で上手く躱されるだろうし、何より空腹に勝てなかったというのもあるけど。

「迷うなあ……あ、このチャオプレートっていうの良いかも」
「オレはチリドッグにするかなー」
「ソニックってば何処でもチリドッグ食べてるなあ」
「別にいいだろ、食べ比べしときたいんだよ。店によって味も全然違うんだぜ?」

 そういうものなのか。道理でこれまで色々と美味しいお店に連れて行ってくれたんだと、一人納得しつつ料理を注文した。しばらく談笑しているとテーブルには次々と皿が運ばれてきて、可愛らしく彩られた料理の数々に私は目を輝かせる。

「可愛い! このプレート、チャオを象ってるんだ。ポヨの位置にプリンが置かれてるのも拘ってるなあ」
「ふーん……ここのチリドッグは控えめな辛さだな」
「ここの料理、チャオに分けてあげることもできるんだって。だから辛さを抑えてあるのかも?」

 ソニックは"成る程ねえ"と呟くとチリドッグの端の部分を千切り、足元にいた黒いチャオにそれを手渡した。その子は大喜びでかぶり付くと夢中で頬張り、ごくりと飲み込むと実に満足と言いたげに真ん丸のお腹を擦る。

「どうだ、美味しかっただろ……おっと、少しじっとしててな」

 ソニックは紙ナプキンを手に取ると、チャオの口元に付いているソースを優しく拭き取る。そのやり取りがどこか親子のように見えて、私は思わず笑みを浮かべていた。

「ん、どうした?」
「いや、今の光景は何か絵になるなあって」
「何だよそれ」
「まあ……その、ソニックなら将来良いパパさんに、なれそう……な、」

 あれ、私は一体何を言っている。一度口をついて出た言葉は引っ込めることも出来ず、みるみる内に顔に熱くなってきた。

「な、なーんて! あははっ、変なこと言ってごめんっ、どうか忘れて、」
「ってことは……この先もお前はずっとオレの隣に居てくれるってことだな?」

 どうしようもなく早口で捲し立てるも、それを遮る形で放たれたソニックの一言。彼は真剣な眼差しをこちらに向けており、吸い込まれそうな翡翠色の瞳に射抜かれて身動ぎ一つ取れず固まってしまう。
 というかソニックさん、あなたはとんでもない解釈をしていませんか。

「ソニック、あの……それって……」
「ぐっ、くくっ……今のお前の顔、鏡で見せてやりたいぜ」

 ソニックは堪えきれないとばかりに笑い出すと、腹を抱えてテーブルへと突っ伏した。私はといえば何が何だか分からずに、ただ呆然とするしかなくて。
 やがて揶揄われただけだと気付いた途端、じわじわと怒りが込み上げてくる。

「そ、そんな笑うことないでしょ!?」
「そう怒るなって……最高に可愛い顔してた」

 顔を上げたソニックはまるで猫のように目を細めて笑い掛けてくる。彼は時々こうして心臓に悪い一言を投げ掛けてくるから質が悪い。
 私はやり場のなくなった感情をぶつけるように、つるりと光るプリンにスプーンを突き立てて勢いよく頬張った。ああもう、舌も心も甘ったるくて堪らない――


 3月20日にリクエストをくださった方へ。ソニック甘夢ということでデート。互いの知らなかった一面を見て惚れ直す的な感じの話となりました。ご期待に添えられましたら幸いです。
 この度は素敵なリクエストをありがとうございました!お持ち帰りはリクエストをされた本人のみとさせていただきます。



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