年末年始1

Morning glow


光の海へ

 今日はクリスマス・イヴ――師走の度重なるイベントの先駆けとなる一日。私達使用人は十二月に入るとすぐに屋敷中を駆け回り、飾りつけや催し物といった準備に奔走してきた。
 今年は過去最大規模のファイターが集結し、最高の年末年始を迎えたいというマスターの計らいにより豪華に飾り付けるようにと命じられた。
 こちらも過去最大級の激務に追われた訳だけど、代わりに使用人達への待遇も格段に上がったので何とかやり切ることができたのである。
 そして今はパーティーの真っ最中。装飾された食堂で料理の並べられたテーブルを囲み楽しそうに過ごしている皆を見ていると、こちらも自然と笑みがこぼれてくる。

「やあナナシ、楽しんでる?」

 ふとかけられた声に振り返ってみると、そこにはジュースの入ったコップを片手に微笑むネスの姿があった。
 彼は十二歳という若さでこのスマッシュブラザーズのファイターに選ばれる程の力を持つ少年。そして私の大切な友人の一人。
 勇敢であり、深い思いやりの心も持ち合わせている。そんな彼に私はほんのりとした憧れを抱いていたりする。

「勿論。飾りつけとか料理とか、頑張ったなって実感してるんだ」
「今年もナナシ達が色々準備してくれてたんだよね。本当に感謝してるよ」

 屈託のない笑顔を浮かべながら礼を言う彼の姿を見ると、なんだか照れくさくなってきてしまう。こちらとしても頑張ってきた甲斐があるというもので、こうして喜んでくれる姿ひとつで報われる。

「ネス達だってずっと戦い続けてきたんだし、年末は思いっきり楽しんでほしくて」
「ありがとう。君は……本当に優しいな」
「そんな、急に褒め出さないでよ」

 ネスの言葉は私に想定外の熱を与えるも、ここで会話が止まってしまった。何か話さなくちゃいけないとは思うんだけど、続けるべき言葉が中々浮かんでこない。
 周囲からは変わらず楽しげな音が響いてくるのに、私達の間にだけ静寂が横たわる。何とも奇妙な感覚だ。
 長い沈黙の後――ネスはゆっくりと私の耳元に顔を寄せてきた。

「ねえナナシ、今時間ある?」
「え……っ、うん。大丈夫だけど……」
「屋上に行かない? 見せたいものがあるんだ。話も、あるし」

 ウインクをして悪戯っぽい笑みを浮かべる姿は、私に素敵な予感をもたらした。誘われるがままに部屋を抜け出し、屋上へのドアを開けて外に出ると二人揃って寒空を見上げる。
 上空は雲もなく澄み切っていて、星々がより鮮明に見えた。手摺に寄って街の方を見下ろしてみると、そこはクリスマスのイルミネーションによって彩られ、もうひとつの星空を思わせるような光景が広がっていた。
 言葉を失うほどの美しい景色に見とれていると、隣にネスが並んできた。そういえば、用があってここに連れてこられたんだった。
 話とは何かと訪ねようとした時――彼はそっと私の手を取ってきた。驚いて振り向くと、真剣味を帯びた視線とかち合う。
 その瞳には熱が込められていて、一寸たりとも逸れることはない。ただならぬ雰囲気に飲まれ、緊張していると重ねられた手に力を込められる。

「今年こそは、この景色をナナシと一緒に見たいって思ってた」
「ネス……?」
「ナナシ。来年も、その次の年も……大人になってもこうして一緒に同じ景色を見たい」

 そう言って真っ直ぐこちらの目を見て問いかけてくる。ネスの言葉の意味を理解した瞬間、全身の血流が速くなっていくのを感じた。さっと火照りだす顔を冷たい空気が心地よく撫ぜてくれる。
 きっと彼はありったけの勇気を出してくれたんだ。私はその想いに応えなければいけない。激しく脈動する心臓を宥めるように、胸の前で片手を当てるとゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……うん。ネス、これからも一緒に素敵な景色を見ていこう」
「ありがとう……ナナシ!」

 私の返答にネスは喜びを隠しきれないといった様子で、繋いでいる手ごと自分のズボンのポケットに突っ込んだ。擦れ合う布の中で指を絡ませ、より深く結ばれる。
 そのまま私達は同じ熱を共有しながら、時間が経つのも忘れて目の前に広がる光の海を眺めていた。
 彼と過ごすこの時間は――私にとって思いがけないクリスマスプレゼントとなったのは言うまでもない。

本企画のトップバッターはネスサン。



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