降り積もるもの
何処に目を向けても映り込むのは赤と緑。そして隣には真っ白な翼を持つ少年の姿。私は今、ピットと共に街を散策していた。
男女二人きりで過ごすという、クリスマスという日にぴったりなシチュエーション。傍から見ればカップルだと思われるかもしれないけど――残念ながら私達はそういった関係ではない。
実は私、このピットという天使にこっそりと想いを抱いている。だけどそれはまだ誰にも打ち明けていない、自分だけの秘密。
多分これからも打ち明けることはできないんだろう。今の関係を崩したくない。それを建前にして踏み込まない臆病な自分に嫌気がさす。
「今年の飾りつけ、去年より豪華じゃない?」
「言われてみれば……イルミネーションの規模も段違いだよね」
「これも明日には全部片付けられちゃうのか……寂しくなるなあ」
こうしてピットと雑談しながら歩いているだけでも、今の私には充分幸せなことだ。クリスマスカラーに染められた景色を眺めながら歩いていると、何度かカップル達とすれ違う。
それぞれ腕を組んでいたり指を絡ませていたり。仲睦まじい様子の恋人達が羨ましくもあり、微笑ましい気持ちにもなる。
私も、いつかピットとあんな風に――。彼らに自分達の姿を投影させていたことに気付いて、自然と頬が熱くなってきた。
そんな時、不意にピットの手に触れてしまった。つい腕を強ばらせると、彼も同じタイミングで反応を示す。
「あ、ごめん……っ」
「ちょっとナナシの手、氷みたいに冷たいよ!? ちゃんと温めなきゃ!」
そう言うなりピットは私の手を引くと、近くの喫茶店に連れ込んだ。暖房がよく効いた店内に入ると、寒さで固まっていた体が解されていく感覚に浸る。
案内された席に着くとピットはすぐに私の両手を包み込み、すりすりと擦ってきた。彼の一連の動作に呆気にとられ、ただただ翻弄されるばかり。
私より大きく温かい手から伝わる熱は、やがて体温だけでなく心まで浸透していく。本当は恥ずかしくてたまらないのに、人肌がもたらす温かさはなんとも心地良くて。
「……こんなに冷えちゃって。女の子が体冷やすのはまずいよ」
「う、うん……手袋、持ってくれば良かった」
優しい言葉を掛けられれば掛けられるほど、心臓の鼓動が激しくなっていく。このままだと破裂してしまいそうな勢いだ。
私を見つめるピットの表情は慈愛に満ちていて、瞳は優しげに細められていた。その姿はまさに『天使』というに相応しく、普段の快活な少年らしい彼とはまるで別人のよう。
――ピット、そういう表情もできるんだね。これ以上目を合わせていると心臓が持たない。再び手の方に視線を向けると、突然彼が驚きの声を上げた。
「見てよナナシ、雪だ!」
弾かれるように顔を上げると、窓の外には粉雪が舞い始めていた。今でも満たされているというのに、その上ホワイト・クリスマスになるなんて。
聖夜の奇跡とも言える光景に思わず見惚れる。暫くの間二人で外の様子を眺めていると、二人して空腹の合図を鳴り響かせてしまった。
「そういえば、お昼まだだったね……っ」
「うん。折角だし何か食べよう。色々と美味しそうなのあるし!」
何とも言えない雰囲気になったけど、こういったところが今の私達らしいのかもしれない。頬が緩んでいくのを感じながら、ピットと一緒にメニュー表を開いた。
限定メニューに目を輝かせながら微笑みを交わし合う。少しずつ降り積もっていく雪のように、これからもこうした時間を重ねていきたい。
そしていずれは大きな一歩を踏み出してみよう。この日二人で食べたケーキは蕩けるほど甘く、幸せな味がした――。
ホワイトクリスマス。白という共通点を出したくて。