年末年始7

Morning glow


笑う門には

 本日は一月三日。クリスマスや大掃除、そして大晦日と忙しなく感じていた年越しから一転、正月は挨拶や初詣といったことを一通り済ませると暇になってしまう。
 こういう時には誰かに絡みにいくに限る――とは思いつつも、仲の良い人達は殆ど自分の世界に帰省していた。
 宛もなく屋敷のロビーに入ってみると、同じく退屈そうにしていたブラピとピットを見つける。
 聞けば二人はそれぞれ上司から正月休みをいただいたものの、特に用事もないというのである。ならばと遊びに誘ってみると、ピットは二つ返事で受けてくれた。
 一方ブラピはぶっきらぼうに鼻を鳴らすだけだったけど、それは彼なりの賛同の意であることを今までの付き合いの中で理解している。
 こうして私は二人を自室に招き、トランプといったゲームをして穏やかに過ごしていた。

「よし、また僕の勝ちだね!」
「おい……もう一度勝負しろ」
「えぇ? もう何回やったと思ってるんだよ」
「いいから、早くカードを配れっ!」

 今はババ抜きをしている最中。ブラピは運に恵まれないらしく現在のところ全敗中。私とピットの戦績は五分五分といったところだ。
 流石のブラピでもこの状況には堪えているのか、一戦ごとに眉間のしわが増えているような気がする。このまま不機嫌になられても困るし、そろそろ別のゲームに切り替えるのもいいかもしれない。

「ねえ、そろそろトランプやめてこっちで遊ばない?」

 そう言って私はテレビ台の横に置いてあるゲーム機を指差す。あれにはこの前買った新作ソフトが挿入されていて、中身はアクションバトルゲーム。
 これなら運だけでなくテクニックなどといった要素でも競うことができる。私の提案に二人は乗り気になってくれたようで、早速三人並んでコントローラーを握る。
 それぞれアバターとなるキャラを選ぶと、最初の戦いが始まった――

「くそっ! ナナシ、俺を嵌めやがったな!?」
「ふふん、私の仕掛けた爆弾にまんまと引っかかっちゃったね」

 画面の中では私達の操るキャラクターが縦横無尽に飛び回りながら激しくぶつかり合っている。その度に互いの体力ゲージが減少していくものの、今のところは拮抗状態が続いていた。
 ちなみにピットは少し前に脱落してしまったものの、楽しげにゲームの成り行きを見守っている。そんな彼とは反対に、ブラピは必死の形相で挑みかかってきた。
 勝利への執念といえばそこまでだけど、もう少し肩の力を抜いて楽しめないものだろうか。普段は物静かな分、珍しいものが見れたと喜ぶべきなのか複雑なところだ。

――調子に乗るな!」
「おっと、危ない……!」

 ブラピの操作するキャラの放った攻撃を避けつつ、反撃の一手を考える。少しずつ冷静さが失われてきているのか、攻めの形も単調なものへと変化していく。
 このまま押し切れるかと思い始めた時だった――不意打ちのように放たれたブラピの一撃を避けることができず、そのまま食らってしまう。

「へっ、まんまと俺の動きに騙されてくれたな」
「な……っ、まさかブラピ、今までのは演技だった……ってこと!?」

 どうやら彼の策略に乗せられてしまったらしい。私が動揺した隙を突いて一気に距離を詰めてくると、先程とは別人のような動きで翻弄してくる。
 そこからの展開はあっという間だった。彼の猛攻になす術もなく追い詰められ、私は呆気なく敗北を喫することになる。

「くうぅ……勝てそうだったのに!」
「ハッ、まだまだ甘かったな」

 悔しいけど、完敗である。ここまで完膚なきまでに叩き潰されるなんて思わなかった。そっと俯いていた顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべるブラピの姿。
 元旦から仏頂面ばかり見てきたけど、ようやく"初笑い"といえるものを拝むことができた。彼にしてみれば、ただ勝利に愉悦しているに過ぎないだろう。
 それでも彼の顔に喜色が浮かぶということ自体珍しく、不思議と私まで気持ちが高揚していくのである。

「お前、何ニヤついてるんだ? 負けたってのに随分と余裕だな」

 どうやら私の心情が表に出ていたらしく、ブラピは怪訝そうに顔を顰める。私としてはもう少しあの笑顔を見ていたかったけど、仕方ない。
 私達の顔を交互に見つめていたピットは察してくれたのか、こちらに微笑むと一言。

「きっと今、ナナシの中で何か良いことがあったんだよ。ね?」
「そういうこと。とりあえず今年からはさ、ブラピも笑ったらいいと思うよ。"笑う門には福来る"っていうし」
「はあ……?」

 今度は呆けた顔で首を傾げるブラピ。それも当然か。彼から笑顔を引き出すのは一筋縄ではいかない。それでも今年こそは笑顔を交わし合える仲になりたいと渇望している自分がいた。
 そこまで至るにはきっと長い道のりになるけれど、いつか必ず。そんな決意を新たにしつつ、私は再びコントローラーを手に取るのであった――

企画の締めはブラピ。ここまで閲覧していただき、ありがとうございました。



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