ブラピ短編11

Morning glow

密かな攻防戦

「おいナナシ、足もっと引っ込めろよ」
「はあ? ブラピこそ足伸ばし過ぎ!」

 秋も終わりかけ、冬の足音が聞こえてきた休日の正午。"暇潰しに付き合え"と当然のように私の部屋に押し掛けてきた恋人のブラピを仕方なく受け入れ、今はこたつでまったり――という訳にはいかず、このように机の下ではバトルが繰り広げられていた。
 元々一人用のこたつに二人で入っているのだから無理はないのだけど。私が少しでも譲ると彼は遠慮なく自分の領地を広げようとしてくるので、今度はこちらから攻勢に出た。
 すると彼も負けじと押し返してくるものだから、つい意地になってしまう。こうしてしばらく攻防戦が続いた後、私達は互いに顔を見合わせながら息を切らした。

「……ちょっと休憩しようよ。コーヒーでも飲む?」
「砂糖はいらないからな」
「ふん、大人ぶっちゃってー」
「うるさい」

 私はケトルでお湯を沸かす間にマグカップを用意し、自分用に角砂糖を一つ落とした。そのついでにこっそりブラピのカップにも一個入れておく。実は以前彼がコーヒーを砂糖とミルク抜きで飲んだ際、カップに口を付ける度眉間の皴が濃くなっていたのを私は見逃さなかったのである。
 その後ようやく飲み終えた後の一言が"コーヒーはブラックに限る"だったんだけど、しばらくの間正に苦虫を噛み潰したような顔をしていて面白かったな。
 回想を浮かべながら湯気が立ち上る二つのマグカップを手にして戻ると、ブラピはほんのりと口を尖らせて机に顎を乗せていた。

「はい、お待たせ」
「……早くこたつに入って来い」
「えー、さっきまで私の足邪魔だったんだから快適だったでしょ」

 机の上にマグカップを並べてそっとこたつの中に足を潜らせると、胡坐をかいていたであろう彼の足にぶつかった。また文句を言われる前に引っ込めておくか、と座り直そうとした時。
 突如彼の両足が私の足に絡みつくように挟み込んできたではないか。まるで逃がすまいとするかのように力を込められていて、後ろに引こうにも動くことが出来ない。

「あのー、動けないんですけど」
「……コーヒー持ってきたんならもう動く必要ないだろ」

 ぶっきらぼうに言いながらそっぽを向くその頬には微かに熱っぽさが帯びていて、それはこたつから伝わる温かさのせいだけではないはずだ。何故なら私の頬も彼のものと同じ色をしているに違いないから。

「……ふーん。本当は私とくっつきたいんだ、可愛いとこあるじゃん」
「なっ……お前、調子乗んな!」

 どうやら図星のようで、今度は一気に耳まで赤く染まってしまった。普段はあんなに大人ぶって素っ気ないのに、こういうところは年相応というかなんというか。そんな所にも惹かれたから付き合っているんだけども。

「……悪いかよ」
「全然。なんならもっと絡んで来て良いんだよ?」
「くっ……少し黙ってろ!」
「はいはい、コーヒー冷める前に飲もうよ」

 照れ隠しなのか更に強く締め付けてくるブラピの両足に、私はなんだか嬉しくなって自身の足をより深く絡ませる。"小さいこたつも良いものかも"なんてことを考えながら、胸の内にまでじんわりと広がる温もりに身を任せていった――

人肌恋しいブラピくん。




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