クラウド短編1

Morning glow

充電

 西日が差し込む自室。休日ということでのんびりと紅茶を楽しみつつ読書に耽っていた私は、ドアの向こうから近付いてくる足音に意識が逸れた。
 今ではすっかり聞き慣れた靴音、歩調からして誰が来るのかは考えるまでもなく。これから訪れる甘やかな一時を思い浮かべ、私はじんじんと疼いてきた胸を抑えつつ"彼"を迎え入れるためにティーカップをもう一つ用意する。
 間もなく響くノックの音。そっとドアを開ければそこに立っていたのは予想通りの人物。私の恋人となってくれた、誰よりも大切な人。

「お疲れ様、クラウド。そろそろ来る頃かなって」
「ああ……最後の試合終えたら真っ先にナナシの部屋に行こうと思ってた」

 後頭部を掻きながらそう零すクラウドに私は微笑み、部屋の中に入るよう促す。よく見れば彼の額やこめかみからは汗が滴り落ちていて、まだ戦いの熱が引いてないことを示していた。
 普段から格好良いのにそういう所も妙に色っぽいのだから心臓がいくつあっても足りない。そうだ、困ることといえばもう一つ――

「さて、今日は連勝記録を塗り替えたことだし……たまにはご褒美くれても良いよな、ナナシ」
「それはおめでとう。ご褒美ならここにお茶とクッキーがあるけど?」
「いや、今日は"こっち"がいい」

 私はクラウドに手を引かれるままベッドへ座り込むと、彼は私の身体を抱き寄せて首筋に顔を寄せた。頬を掠める彼の金髪が西日を受けて眩しく煌めき、思わず目を瞑る。
 クラウドが私に対して時折見せてくる、年下の少年らしい一面。普段はクールに努めようとしているけど、年相応にむっつりした所もあり度々こうして押し迫ってくるのだ。
 普段周りに誰かいる時の素っ気ない雰囲気とは全く別人のようで、私は見事そのギャップに心を鷲掴みにされてしまっている。

「ナナシの匂い……落ち着く」
「あっ、汗かいてるからあんま嗅がないでってばっ」
「別に気にしないさ」

 満足したのかようやく首筋から顔を離したかと思えば今度は私の顎に手を添えて上向かせ、そして口付けてきた。最初は啄むように軽く音を立て、舌を差し入れてきたのを合図に深さは増していく。
 やがて苦しくなって胸板を軽く叩けばようやく解放してくれるけれど、しっかりと後頭部や腰に腕を回して離れないよう抱き留められてしまう。

「もうっ、いつもがっつきすぎ……!」
「たまにはこうしてナナシに充電させてもらわないとな」
「はあ……まーたクラウドの悪い癖が出た」
「でも嫌じゃないんだろ? いつも俺をもてなす準備までしといて」

 この通り、クラウドは週に一回くらいの頻度で甘えてくるのである。それもキスを始めとした濃いスキンシップを求めてくるというもので、それがまた心地よく癖になっている。
 付き合い始めた頃は恥ずかしさから毎度迫られては押し退けて逃れてきたけど、今ではもうすっかり彼のペースに飲まれてしまっている有り様だ。
 こうして年下に翻弄されるのも悪くないのかもと、新たな扉が開きそうになっている自分に苦笑する。

「なあ、このままナナシの部屋に泊まっていい? 今日はもう疲れて動きたくない……」
「さっきまで欲求不満でガツガツしてた男の発言じゃないでしょ、それ」
「頼む……俺はナナシの側だからこそゆっくり休めるんだ」

 ベッドに寝転がり強請る子供のように見つめてくるクラウド。すっかり絆されていた私は心を鬼にすることもできず――頷く代わりにこれでもかと大きな溜め息をついて見せた。

「……今日だけ、だからね」
「やっぱりナナシは優しいな」

 すると彼はまるで私の返答を予測していたかのように、してやったりという笑みを浮かべるのであった。全く、こんなあざとい一面を見せつけられてもなお頬が緩んでしまう私はとことんちょろい女なのである。

 翌朝。何故か満足げな様子のクラウドを廊下で見送り、その後大広間の清掃に勤しんでいた時の事。同僚から項に痕が付いていることを指摘され、大慌てで弁解しようとする私がいた――

恋人の前では甘ったれで少しやらしいクラウドさん。




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