カービィ短編1

Morning glow

Eat or love?

 ナナシはボクにとって大切な存在。ボクが乱闘で勝てば自分のことのように大喜びしてくれて。厨房の料理をつまみ食いしたと疑われた時もすぐに庇ってくれて、一緒に真犯人を探したり。ナナシはいつだってボクの味方になってくれる。
 それがなんだかくすぐったくて、暖かくて、甘い気持ちになるんだ。例えるなら大好物の"マキシムトマト"を頬張った時。はたまた、とびきり美味しい苺のショートケーキを味わう時の、あの極上の幸せに似ているかもしれない。
 それをナナシに伝えてみると、彼女は目を丸くした後に笑い声を漏らすんだ。

「それだと私、まるで食べ物みたいじゃん」
「そうじゃなくて! ナナシはボクの大好きなものと同じぐらい大事ってこと!」
「これじゃいつか、カービィに食べられちゃうかもなあ……」

 なんて言いながら、大きな雲が漂う青空を眺めるナナシ。実を言うと、本気でそうしてみようかなと思うことは何度もあった。
 ボクの中に居れば安全だし、いつも一緒にいられるから――というのも本心だけど、最近はナナシのことが美味しそうに見えてしまって。
 もちろんこんなのおかしいって思うんだけど、この気持ちは食べ物を求める時に似ているけど違うようで、ボクはどうしたらいいか分からなくなる。よく"食べちゃいたいぐらい可愛い"なんてセリフがあるけど、あれも当てはまるかと言われたら自信がないや。
 ナナシ、例えば今ボクが"君を食べたい"って言ったら、どんな顔をするだろう。空を見上げる横顔を見つめていると、彼女は顔を傾けて視線をこちらに向けた。

「でも……カービィになら一度ぐらい食べられちゃってもいいかな、って思っちゃうんだよね。その体の中、どうなってるのか気になってたし」

 そう言って悪戯っぽく笑いかけてくるナナシは、やっぱり美味しそう。ボクがその言葉をどう受け取ったかなんて、君は想像すらしてないかもね。

「……そんなこと言っちゃうと、本当に食べちゃうよ?」
「わあ、こわーい!」

 大げさに怖がるような仕草を見せたナナシは、無邪気に声を上げながら駆け出す。そしてボクに振り返りながら、"先に屋敷に着いた方が今日のおやつ独り占め!"なんて言うものだから、ボクも負けじと走り出す。
 いつの間にか並んで走っていたボク達は、顔を見合わせると二人して笑顔になった。君と一緒にいるだけで、ボクはこんなにも元気をもらえる。単純かもしれないけど、これって本当にスゴイことなんだよ。

「ちょっ、カービィ速いって!」
「おやつは譲れないよ!」

 ナナシ、ボクだけは何があってもずっと君の味方。ひとりぼっちになんかさせないから、安心してね。そう遠くない未来で、この"気持ち"の正体を知ることになるのはまた別のお話――

ちょっと不穏な方向に行きそうな気がしたけど、多分気のせい。




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