リンク短編1

Morning glow



 午後のチャイムが屋敷中に響いている中、私は大広間の床をモップがけしていた。ツヤツヤになっていくタイルを満足げに見ていると、豪腕の剣士――アイクが近寄ってきた。
 そのこめかみには青筋が浮かんでいて、静かな怒りをひしひしと感じる。もう彼が何を言わんとしているのか、嫌でもわかってしまう。

「ナナシ、悪いが今からリンクを探しに行ってくれ」
「また? というか私、掃除の最中なんだけど……」
「仕方ないだろう。この屋敷に住んでいる人間で、すぐにリンクを見つけられるのはお前しかいない」

 渋い顔をして頼み込んでくるアイクに、私は大きなため息をつくしかなかった。ひとまず掃除用具を片付けて、屋敷の外へと駆け出した。私達が住んでいる屋敷は森林に囲まれていて、街へと続く林道を少し逸れると大きな湖が見えてくる。
 空は快晴で、風も穏やか。普通に散歩するならうってつけの陽気だ。こういう日の場合、リンクが向かう先といえばあそこだろう――
 私の予想通り、湖畔には探していた彼の姿があった。呑気に釣り糸なんか垂らして、側には焚き火の用意まであった。

「はあ、まーた試合サボってる」
「なんだ、ナナシか」
「なんだじゃないよ。アイクがカンカンになってたよ」

 釣り糸から視線をはずさないまま、その口元は緩く弧を描いている。リンクのサボり癖は今に始まったことではない。
 試合の時間になっても姿を見せない時はこうして湖で釣りをしていたり、森を散策したりしているのである。そろそろマスターに怒られるのではないかと思うと内心ひやりとする。

「そっか、今日の試合にはアイクもいるんだったっけ」
「あのさあ、そろそろ抜け出すのやめた方がいいよ。マスターから何言われるかわからないんだよ?」

 まだこの屋敷に拾われて間もない頃から、他の使用人達と共にリンクを探す為に駆り出されることはよくあった。そして何故かいつも私が一番に彼を見つけては屋敷に連れ帰ってきていた。
 そんな長所ともつかない所に目をつけられてしまったのか、いつの間にか他のファイター達からリンク連れ戻し担当の役割を押し付けられていた。
 最初はいい迷惑だと思っていたけど、何回も探している内にリンクの行動パターンやよく向かうスポットを把握していき、次第に彼に興味を持つようになっていた。――これからも彼を探すのは私の役割。この屋敷に存在している理由のひとつになりつつある。

「大丈夫だよ。そこまで厳しくないだろうし」
「楽観的過ぎない?」
「元の世界でのことと比べたら、些細なものだって」

 そう言うとリンクは少しだけ目を細めた。確か、彼のいた世界は一度厄災と呼ばれる存在に滅ぼされかけていたと聞いている。
 あちらこちらで魔物が闊歩する大地を駆け巡り、失われた記憶を取り戻しながらリンクは旅をしていた。
 それに比べたら今試合に出るか出ないかで怒られることは、彼にとっては大きな問題では無いんだろう。しかし周りはそうではないのだ。こうして毎回探しに行く私の身にもなってほしい。

「私いっつも大変なんだよ? 仕事の最中に君を探しに行ってくれなんて頼まれるし」
「それで、なんだかんだ言いつつ今日もオレを探しに来てくれた訳だ」

 その言葉を聞いて私は固まった。その気になれば断ることもできるのに、私自身仕方ないとか言いながらリンクを探すことを優先しがちになる。
 図星を突かれた私は押し黙ったまま、ただ唇を引き結んだ。そんな私の様子を見たリンクは片眉を吊り上げてしたり顔をするのである。

「ほらね、ナナシは優しい。いつも自分のことよりも誰かの頼みを優先するし、それに君は――
「うるさい! ほら、早く戻るの!」
「はいはい。わかってるって」

 私が居た堪れなくなってつい怒鳴ると、リンクは笑い声をあげながら釣り竿をしまって立ち上がった。そのまま私の横を通り過ぎると、後ろ手を振りながら屋敷へと戻っていく。
 その背中を見ながら、また負けたような気分になった。それにしても彼は最後に何て言おうとしたんだろうか。遮ってしまったことを少し後悔する。
 私は彼に追いつき言葉の続きを聞いてみたけど、いつもの調子ではぐらかされてしまった。その後屋敷に戻ってきた後アイクに叱られてもどこ吹く風で、謝りはするけど飄々とした態度は崩さない。
 リンクって昔からこういう感じだったんだろうか。以前から彼は自分の過去を語りたがらない。私は彼のことを理解しきれていない。
 でも、今私達の目の前にいる彼こそが素の姿なんじゃないだろうか。少なくとも私はそう思っていたい。何故かって――その澄んだ瞳はいつでも活き活きとして輝いていたから。
 そんな彼の横顔を見ていると、勝手に体温が上がるようになってしまうのはなんとかならないだろうか。

ウツシエムービー見てから記憶を無くした後のはっちゃけぶりを見ていると、こっちの方が素なのかなと。 




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