金色赤色誰の色
秋晴れの空の下、私は落ち葉が詰め込まれた袋を抱えて屋敷の裏庭へと向かっていた。この落ち葉は昨日の庭掃除で集めたもので、"あること"に使いたいとリーダーに頼み込んだところ一袋分を譲ってもらえた。
渡り廊下を潜り裏庭に着くと、そこではリュカがバケツや新聞紙を用意して私を待っていた。
「リュカ、お待たせ! 落ち葉はこれで足りそう?」
「おかえりナナシ。その量なら充分だよ。後はネスとトゥーンが芋を持ってくれば準備完了だね」
リュカは袋の口を開けて中の落ち葉を地面にあけた。焦げ茶色の上に鮮やかな赤や黄色が広がっていく光景に自然とわくわくする。
二人で落ち葉をかき集めて山を作っていると、背後からネスとトゥーンの声が近付いてきた。彼らの腕には芋の入った袋が抱えられていて、それぞれの汗ばんだ顔を見るに相当重そうだと窺える。
「ふぅ、やっと着いた……」
「おっ、もう準備できてるな!」
二人は袋を地面に下ろすと側にあるベンチに腰かけて一息ついた。この大量の芋は街で買ってきてもらったもの。元は人数分だけという話だったんだけど、多分どちらかが欲張ったんだろうなあ。私は彼らを労いつつ、運んできた芋を取り出していく。
「二人ともお疲れ様。あとは私達がやるから休んでて!」
「ありがとう、助かるよ」
「ボクもちょっと休憩……」
今度はこちらが張り切る番だ。私は濡らした新聞紙で芋を包みその上からアルミホイルを巻き、リュカはそれを落ち葉の中に均等になるように埋めていく。芋を全て包み終わると私はマッチで火を起こし、赤と黄の山に点火した。
「それっ、PKファイヤー!」
「おいおい、ただのマッチじゃんか」
「いいでしょ、真似したかったの!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
トゥーンに突っ込まれて反発するもリュカに宥められてしまった。折角の焼き芋なのに雰囲気を壊してはいけないな、と反省し火の勢いを見守る。
ありがたいことに今日の風は落ち着いており、煙に巻かれる心配もない。しばらくすると燻っていた火種は乾いた音を立てて燃え始めたので一安心。焚き火で焼く場合は時間がかかるので、私達はベンチに戻り雑談などをしつつその時を待つことにした――。
***
「火の勢いが落ちてきたね」
「そろそろいいかな?」
「うん、火バサミ入れてみるよ」
燃え尽きた落ち葉の山の中へそっと火バサミを刺し込み、探るようにかき回すと次々と芋を取り出していく。試しに一個手に取り、アルミホイルと新聞紙を剥がすとこんがりとした紫色の皮が現れた。
中身もしっかり熱が通ってるようでほっくりとしており、所々から黄金のような色をした蜜が滲んでいる。
「これ、上手く焼けたんじゃない……!?」
「どれどれ味見を……って、あっつ、うまっ!」
もう我慢できなかった私達は冷ますこともせず焼き芋にかぶりついた。ほくほくとした食感と優しい甘さによって、口いっぱいに幸せな風味が広がる。
「凄い、本当に美味しい!」
「これは大成功だよね」
そういって微笑むリュカからもほんのりと幸福オーラが漂っていて、モクモクと動く頬がなんだか可愛らしく見えた。つい見惚れてしまい、しばらく眺めていると不意にこちらを向いたリュカと視線がかち合い、慌てて顔を背けてしまった。
「どうしたのナナシ」
「い、いや、なんでもないよ?」
「嘘だ。僕をじっと見てたじゃない」
「ええとその……リュカの髪の毛の色、この焼き芋みたいだなって」
自分は一体何を言ってるんだ。最早取り繕うこともできずにあたふたとしていると、リュカの顔が一気に近付き――私が持っていた焼き芋にかぷり、と噛みついた。
「隙あり、だね」
「なっ……えぇ!?」
心底驚いた。普段大人しい性格のリュカが、まさかこんな大胆なことするなんて。あまりにも自然な流れだったので反応すらできずにいたけど、やがてじわじわと羞恥心が込み上げてきた。
「ちょっと、急に何をっ……」
「そうだ。まだ芋沢山あるし、むらびと達にも持っていってあげようかな」
私の言葉を遮るかのようにリュカは立ち上がると、焚き火に向かう前に何かぽつりと呟いた。
「焼き芋、ナナシみたいに甘くて美味しかった」
そのままリュカは振り返ることなく行ってしまった。残された私はただ呆然とするばかり。果たして今のは聞き間違いだろうか。それとも本当に――彼の真意はどうあれ、先程から全身が熱くて仕方がない。私の膝の上に落ちてきた紅葉と火照る頬。より赤いのはどちらだろうか。
強かでちゃっかり者のリュカも良いなと。