ネス短編17

Morning glow

小ネタまとめ①

 平日の中庭。太陽は真上にある。僕は今、試合の休憩がてら偶然会ったナナシと雑談をしていた。ベンチに腰掛け二人きり。なんて嬉しいサプライズなんだ。
 彼女はこの屋敷で働く使用人の一人で、僕よりちょっと年上。そして――僕の好きな人。
 折角だし、前から気になってどうしようもなかったことを聞いてみる。果たして彼女はなんて答えるだろう。恐れを振り払うように勇気を振り絞ると、口を開いた。

「あのさっ! ナナシって、す、好きな人いないの?」
「うーん、特にいないけど。どうしたのいきなり」
「いや別に。ただ気になっただけだから」

 あっさりとした返答は、言い換えれば僕も恋愛対象に入ってはいないということ。残念だけども、ナナシから"想い人はいない"という現状を聞き出せただけ充分か。
 当の本人はきょとんとしていたものの、その瞳を緩やかに細めた。まるで面白そうなことでも思いついたみたいに。

「そんなストレートに聞いてくる割に消極的なんだ。ネスも思春期真っ盛りだねえ!」
「うるさいな、何一人で盛り上がってるんだよ」
「あ、顔真っ赤になってる。本当にかわいいなあネスは」

 僕の頬を指しながらケラケラと笑うナナシ。そうしてからかっていられるのも今の内。僕だって、男なんだ。想いの深さに年齢なんてものは関係ない。
 今に見てなよ。すぐに君の身長なんて追い越して、その笑顔も、心も全て僕だけのものにしてみせる。
 膝の上に乗せていた手に力が込もるのを感じながら、僕は一人誓いを立てた――



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



 とある休日の昼下がり。ナナシの部屋の中。恋人同士であるにも関わらず、僕とナナシを包む空間は静寂そのもの。
 ナナシはというと、彼氏が遊びに来ているというのにベッドの上に腰掛けて読書に夢中になっている。なんだよ、と不貞腐れながらも彼女の姿を眺めていた。
 時折ページを捲りつつ、その手の動きに合わせて長い髪がさらりと揺れ動く。伏し目がちで本の世界に心奪われている姿は、とても絵になっていた。
 しばらく見惚れていると視線を感じたのか、彼女がこちらを見た。ばっちり目が合うこと数秒。僕は弾かれるように我に返ると、つい口を尖らせてしまう。

「……いつまで読んでるのさ」
「ごっ、ごめんね。今良いところだから、あと数ページだけ……!」

 謝ってきたと思ったらこれだ。彼氏が遊びに来ているのに随分と余裕だね。こうなったら意地でも構ってもらおうじゃないか。僕はナナシの隣まで移動すると横から抱き寄せてみる。
 すると突然の出来事に腕の中の身体がびくりと震えた。構わずそのまま思い切り抱きしめると、やがておずおずとした声が聞こえてくる。

「えっと……ネス? どしたの?」
「いい加減こっちに意識向けてくれない?」
「わ、わかったから離して……っ」
「嫌だ。その本を閉じるまで離さない」

 耳元で囁くと彼女は声を詰まらせ、観念したかのようにゆっくりと本を閉じた。その隙を狙ってすかさず唇を奪う。
 柔らかな感触を楽しむと一旦離れる。至近距離で見つめ合っていると、彼女は顔を赤くしながらひどく狼狽えていた。

「やっ……い、いきなりすぎるでしょ!」
「いつまでも僕を放置してるからだよ」
「もう……本当に悪かったから。これで許してよ」

 言い終わると同時にナナシの方から同じことをされた。不意打ちに思わず目を丸くする。普段は大人しいのに、時折大胆な行動に出ることがあるから困ったものだ。
 だけどそんな緩急のある部分に惹かれているのも事実。ナナシが本の世界に囚われていくのと同じように、僕も彼女に囚われていくんだ――

小ネタ二本立てです。また思いついたら②も作るかも。




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