お礼SS

Morning glow


こちらは1000HIT記念のお礼SSとなります。
楽しんでいただけましたら幸いです。



「どうしよう……出られなくなっちゃった」

 ――危機は突如私ナナシと、恋人に降りかかってきた。今、私達はひとつの部屋に閉じ込められている。

 事は十五分前に遡る。この日は街でデートをしていた。たっぷりと二人の時間を楽しみ、やがて夕暮れ時になり屋敷に帰る途中、近道にと路地裏を歩いていた時のこと。
 曲がり角に差し掛かった私達の前に突然、見るからに可愛らしい様相の店が現れたのである。
 薄暗い路地裏には場違いともいえるその建物には窓が無く、中の様子を伺うことはできない。代わりに仄かな甘い香りが漂ってくる。
 そして壁に貼られていたのは"有名店のスイーツ食べ放題! カップルで入店すると今なら無料に!"のポスター。
 スイーツに目がない私にとってこれは最高のシチュエーションだった。こんな所に店なんてあったかと訝しむ彼を何とか説得し、ドアに手をかけると小さなベルがちりん、と可愛らしい音を立てた。
 ――しかし足を踏み入れた瞬間、私達は唖然とする。
 何故なら薄暗い室内には何も置かれておらず、壁も天井も一面真っ白だったからだ。これは一体どういうことかと部屋の中央に進んだ時だった。
 私達の背後で開いたままにしてあったドアが勢いよく閉まったと思うと、そのドアはスライドしながら地面に沈んでいったのである。
 慌てて周りを見てもやはり窓というものはなく――私達はこの空間に完全に閉じ込められてしまった。

 こうして今に至る。以前から好意を寄せていた彼と遂に想いが通じ合い、付き合い始めて二週間。
 もしかしたら、浮かれすぎていたツケが回ってきたのかもしれない。そもそも私があんな提案をしたのが間違いだったんだ。
 ふと、項垂れる私の足元に一枚の紙が落ちていることに気付き、拾い上げる。いつの間にここにあったんだろうか。よく見ると何やら文章が数行にわたって書き込まれていた。

"おめでとうございます! この部屋に迷い込んだあなた達お二方は、もしかしたら幸運かもしれませんよ?"

 一体何が"おめでとう"なのか。この状況の何処が"幸運"なのか。この部屋を用意したらしい謎の人物に憤りを感じながらも、隣で一緒に文を読んでいた彼と顔を見合わせた。
 試しに裏返してみるとまだ続きの文章が書かれていた。しかしその内容は、追い詰められていた私の心に追い打ちをかけるようなもので――

"ここから出たいですか? それなら方法はただひとつ! 今隣にいる恋人とキスができたら、外へと通じる扉はあなた達の前に再び現れることでしょう!"

 なんということだ。キスをしない限りここから出ることは出来ないらしい。この紙に書いてあることを鵜呑みにしていいものかと考えたけど、脱出への手掛かりはこれしかないというのも事実。
 しかしまだ彼とは付き合い始めたばかり。故に私はそういったことはまだまだ不慣れで。どうしたものかと、彼の方をちらと見やる。
 すると彼は――

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ネスの場合

「へえ……キスすれば出られるんだね」

 ネスは特に取り乱すこともなく、紙から視線を外して私を見つめ返してきた。何故彼はこうも落ち着いていられるのか。私だけが狼狽えていては、年上として面子が立たないではないか。

「何でネスはそこまで落ち着いてられんの……? だって、き、キスするんだよ?」
「キスは前にもしたことあるでしょ。僕としては滅茶苦茶な難題をふっかけられなくて安心したんだけど」

 私にとってはキスだって充分難題だ。それにしても、時折ネスはこうして年の差を感じさせない言動をしてくることがある。私は彼のそういうところにも惹かれていた。
 普段何かと背伸びしている中でちらりと見せる年相応の反応も――全てが愛おしくてたまらない。
 彼の言葉に返答できずにいるとネスの手が伸びてきて、頬に触れられたと思うとあっという間に距離を詰められていた。

「ほら、早くしないとずっとこのままだよ。それとも、一生ここで暮らすつもり?」
「……ええい、分かった!」

 そう言われてしまえば覚悟を決めるしかない。思いっきり目を閉じればすぐに唇に柔らかなものを感じた。やがて何度も角度を変えて口付けられる。
 それは最早子供がするものとは思えない、一種の妖しさを含んだものへと変わっていた。舌が絡み合う度に水音が脳内にまで響いてくる気がして、思わず興奮してしまう。
 暫くして離れたかと思うと今度は抱き寄せられ、再び深く唇を重ねられる。先程よりも長く感じたそれはやがて終わりを迎え、お互いの吐息がかかる距離でようやく目を開いた。

「ちょっと、ネスってば……やり過ぎ!」
「ごめん、何か興奮してきちゃって……でもこれで外に出られるよね」

 息絶え絶えな私の怒声を受けて微笑むネスの顔は、いつもより大人びて見える。しかし分かりやすいことに、頬にはしっかりと赤みが差していた。私はつられるように顔に募る熱を感じながら俯く。
 すると不意に彼に腕を掴まれて、そっと立ち上がらせられる。驚いて顔を上げるとそこには先程まで無かった出口への扉があった。

「ほらナナシ、早く行こう。あの扉、いつまであるか分からないしさ」
「う、うん……!」

 ネスに手を引かれながら扉を開けると、私達は元の路地裏に戻ってきていた。あれから時間が経っていたからか、辺りは更に暗くなっていた。
 振り返ってみるとあの部屋は跡形もなく消えていて、小さな空き地が広がっているだけ。まるで最初から存在などしていなかったかのような光景に、思わず寒気のようなものが走る。

「嘘、どうなってんの……?」
「さあ……"この世界"だからね。何か起きる度に一々驚いてたらキリがないよ」

 確かにそうだけど、と相槌を打って私達は屋敷へと足を急がせた。彼に気付かれないようにそっと視線を向けると、そこには少年らしくあどけない笑顔があった。
 年齢だけを見れば私の方が少し上だけど、中身では敵わないことだらけで。だからこそ年の差なんて関係ないと思わされるのかもしれない。
 このまま成長していったら、一体どんな男性になっていくんだろうか。こうして私達は帰り着くまでの間、繋がれた手が離れることはなかった――

リュカの場合

「キス……キスかあ」

 リュカは顔を赤くさせて小さく呟くと、黙って俯いてしまった。私はというと、不思議と落ち着いていた。こちらが年上だからというのもあるけど、今のリュカがどこか可愛らしく見えているからというのもあると思う。
 普段は表情を引き締めていて男らしく振舞っているけど、こういった局面になると途端に初心な所が出てくる。そういう所も含めて私はリュカのことを好きになった。
 私としてはそんなリュカとこれからも異性として向き合っていきたい。だからこそ今は彼に顔を上げてほしい。

「ねえリュカ、顔上げて?」

 それでも彼は俯いて、何かを言い出したくても声に出せないという様子だった。どうにかしてこちらを向いてもらえないだろうか。私はふと、あることを思いつく。これはひとつの賭けだ。

「リュカは私のこと……嫌になった?」
「え――っ、そんな事無い!」

 勢いよく顔を上げたリュカの頬を両手で包むと、そのままそっと唇を重ねる。柔らかい感触が伝わってきて、勇気を出して少しだけ舌先を伸ばす。
 すると驚いたのかリュカが僅かに身じろぎしたけど、気にせず絡めていく。お互い息継ぎの仕方も分からず暫くの間そうしていた後、ゆっくりと離す。
 するとそこには驚きに目を見開くリュカの顔があった。その瞳にはうっすら涙まで滲んでいる。もしかすると引かれたかもしれない。そう思った矢先のことだった。

「……僕だって」
「え、ちょっ――

 いきなり力強く抱き寄せられると、今度はリュカの方から口付けてきた。さっきよりもずっと深くて長い。呼吸も忘れるほどに激しく求められ、頭の中がぼうっとしてくる。
 しばらくしてようやく解放されると、お互いに肩で息をしていた。驚いた。いつも初心で受身になりがちだと思っていたリュカがここまでするなんて。
 思わず唇に手を当てたまま唖然としていると、背後から扉が現れる音が聞こえてきた。リュカは私より先に立ち上がると、私から顔を逸らしたままそっと手を差し伸べてくる。

「早く帰ろう。皆も心配するから」

 その手を掴んで立ち上がっても、私の頭の中にはキスをしている時の光景が焼き付いて離れなかった。リュカが私に示してくれた精一杯の気持ち。そっと彼の横顔を見ると、そこには一人の凛々しい男の顔があった。
 高鳴る胸の鼓動をそのままに彼はこれからもっと男らしく成長していくんだと思うと、今から胸の内に湧き上がる熱に心が包まれていくのであった――

リンクの場合

「……そうきたか」

 リンクは私の横で普段のように飄々とした姿を見せるのかと思いきや、意外にも余裕の無い表情を浮かべていた。彼とは恋人になった日から今に至るまでの間、既に何度か唇を重ねてきた。
 普段から器用過ぎる彼にしては意外なことに、こういった話になると途端にぎこちなくなる。だけどキスはいつも彼からしてくれていた。だからきっと――今日もそうなるんだと思っていた。
 しかし彼は私を見つめていたかと思うと、ふいと顔を小さく背ける。その表情はどこか拗ねているようにも見えて、私は何事かと戸惑う。

「えっと……どうしたの、リンク」
「いつもオレからしてるんだし……この機会だからたまにはナナシからしてくれてもいいんじゃないかって」

 頬を染めながら言い放たれた言葉に、思わず赤面してしまう。確かにリンクの言う通りだった。付き合ってからも彼がリードしてくれるばかりで、自分からは殆ど何もできてない気がする。
 でも、そんなことを急に言われても困ってしまう。今までだってキスをされる度に緊張して、身が強張る始末で。こんな状況の中だと言うのに、いざ自分からとなると羞恥心の方が勝ってしまった。
 何も返答できずに立ち尽くしていると、突然リンクはこちらに体を寄せてそのまま私の両肩を掴んだ。そしてじっと見据えてくるものだから、更に鼓動が激しくなってしまう。

「……ああ、じれったいな」
「わあっ!?」

 痺れを切らせたリンクは半ば強引に私を抱き寄せると、そのまま私に口付けた。最初は軽く触れる程度だったのに、やがて啄むような動きに変わる。何度も角度を変え、徐々に深いものへと変化していった。
 ――どれくらいの時間こうしていただろう。ようやく離された時にはすっかり力が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまう。

「やり過ぎたか……大丈夫?」

 差し出された手を取ってよろりと立ち上がると、リンクは肩を竦めながら微笑みかけてきた。その笑顔を見ると不思議と気持ちが落ち着く。やっぱり私は――彼のことが好き。
 気付けば私は背伸びをして、彼の唇に自分のそれを重ねていた。さっきまであれだけ躊躇っていたというのに、今はもう全く気にならなかった。
 やがて顔を離すと、私達の目の前にあった壁に扉が現れた。どうやら無事条件を達成できたらしい。

「ナナシ、やっとその気になってくれたんだ」
「今のは、その……!」
「こんな形になったけど……オレは嬉しい」

 リンクの顔を見ていられなくなって、さっと俯くと彼の嬉しそうな声が耳に響いてくる。こうして二人で先程までの余韻に浸りながら出口へと向かう。
 ちら、とリンクの様子を伺うと、彼の横顔は普段と変わらぬ穏やかな色を浮かべている。――ひとつだけ違うのは、彼の長い耳がこれ程までになく赤い色を宿していることだった。

ピットの場合

「なっ、えぇー!? き、キスって……!」

 ピットは慌てふためいて右往左往しだした。私もどうしていいか分からずその場に蹲っていた。実は私達、付き合い始めてから一度もキスというものをしたことがない。
 というのも私も、彼も奥手だからという至極単純な理由があるからだ。二人きりになった途端お互いに強く意識してしまうからか、これといって大きな進展というものは無かった。
 そんな状態でいきなりキスなんて難易度が高すぎる。でも、そろそろ覚悟を決めるべきなんだろうか。私は意を決して顔を上げてピットの方に向き直った瞬間、彼の顔が視界を埋め尽くしていた。
 至近距離でお互いの視線が絡み合って、身も心も固まる。どうやら私とピットは同じタイミングで顔を向けようとしていたらしい。状況が把握できると次第に胸の奥が高鳴っていき、全身に熱が帯びていくのを感じた。
 同じくピットの顔もみるみると赤く染まっていく。今、私達は鏡合わせのように同じ表情をしているに違いない。それでも目を逸らすことが出来ずにいた。
 もうこの勢いに乗るしかない。私は無意識の内に彼の肩に手をかけていた。後は顔を近付けていくだけ。この簡単な動作をするのには、途轍もない勇気がいる。
 ――しかし後数センチというところで私の中に燻る羞恥心というものが邪魔をして、それ以上進むことが出来なかった。  あと一歩なのに、それが出来ない。何ともどかしく情けないことか。自分が思う以上に意気地無しだということに気付かされた私は、悔しさを感じていた。
 その時、ピットの腕が動いたかと思うと私の背中に回されていた。

「えっ――

 一瞬の出来事に思考回路が停止する。気付いた時には既にピットの唇が私のものに重なっていた。柔らかく、そして少し温かい感触。
 初めて味わう感覚に身体が硬直してしまっていた。どれくらいそうしていただろう。実際はほんの数秒かもしれないけど、私にとっては何分も経っているように感じられたんだ。
 やがて名残惜しげに離れていったピットは、すぐに俯いてしまってどんな表情を浮かべているのか分からない。しかし耳まで真っ赤になっていることだけは分かった。

「ピット……?」
「……折角ナナシも勇気を出してくれたんだ。ここは僕が男を見せなきゃって思って」

 そう話す声が微かに震えていることに気付いた。その様子を目の当たりにして私の中で何かが弾けた気がして、考えるよりも先に身体が動く。
 ピットを抱きしめるとそのまま床に倒れ込み、二人してひんやりとした床の上に横たわる。

「ちょ、ちょっとナナシ! 急に何を――
「ごめん。何か、我慢できなくて……!」
「……へ!?」
「好き。ピットのこと大好き……!」

 私の言葉を聞いたピットはしばらく呆然としていたけど、すぐに顔が茹で上がった蛸みたいに真っ赤になっていった。そして私の肩に顔を埋めると、消え入りそうな声で呟く。

「僕だって……君のこと、大好き」

 ――やっぱりそうだ。私達は何もかもが綺麗に合致しているんだ。こんなにもぴったりとはまる相手は他にいない。
 改めてこの想いを再認識させる切っ掛けを作ってくれた、この部屋を作った人物に感謝しなくちゃいけないかも。
 ただ"幸せ"という感情に包まれていた私は、扉が現れる音も聞こえない程ピットのことで心も思考もう埋め尽くされていた。

ブラピの場合

「……とんでもないことしてくれやがって」

 ブラピは片手で額を抑えて、大きくため息をついていた。よく些細なことで言い合いはするけど、今回ばかりは呆れられても仕方がないと思う。だって私は彼と手を繋ぐことすらままならないんだから。そんな私達がいきなりキスなんてできるわけがない。

「私のせいだ……本当にごめん」

 私は俯くことしかできず、そのまま二人の間には沈黙が広がった。お互い何も喋らない時間が続く。
 このままじゃいけないと思いつつも、この先をどう切り出せばいいのか分からない。そうして悩んでいる内に段々と気持ちまで落ち込んでくる。
 ――今頃ブラピは私と付き合ったことを後悔してるんじゃないだろうか。
 もしかしたら面倒臭いと思っているかも。そうだとしたらこんな女とはさっさと別れた方がいいんじゃないだろうか。
 そんなネガティブな考えに囚われていると、突然視界が暗くなった。驚いて頭を上げるとそこにはこちらに向かって身を乗り出す彼の姿があった。

「はい……? ブラピ?」
「いいから、目瞑ってろ」

 有無を言わせない口調で言われて思わず目をぎゅっと閉じると、次の瞬間唇に何かが重なる感触がする。それが彼の唇だと理解するのに時間はかからなかった。
 温かくて、柔らかくて、それでいてどこか安心する心地良さに頭がくらくらしてくる。これがキスというものなのか。今まで感じたことのない切ない感覚に身体が熱くなるのを感じた。
 どれくらいの時間そうしていただろう。やがて名残惜しげにゆっくりと離れていく体温に寂しさを覚えると同時に、胸の奥に灯った小さな炎のような感情に戸惑う。

「……ったく、お前の初めてをこんな形で奪っちまうことになるとはな」

 ぶっきらぼうに放たれた言葉に心臓が跳ね上がった。こんな状況でも私の気持ちを一番に考えてくれているのが伝わってくる。
 こうしたブラピの不器用な優しさに、いつも支えられていた。溢れてくる熱をそのままに、私は彼に思いっきり抱きつく。
 その時だった。床下から再びドアが現れると、鍵の開く音が聞こえた。どうやら条件を満たしたと見做されたらしい。
 これでやっと出られるんだ――安堵のあまり抱きついたままだったブラピにもたれ掛かってしまう。

「ナナシ……お前って奴は」
「何か……本当ごめん」

 少しだけ困ったような声を出す彼に対して素直に謝ると、ため息と共に頭を撫でられた。そして私達は出口へと向かう。
 それにしても、一体誰がこんな部屋を仕掛けたんだろうか。ブラピの意見を聞いてみると、彼は眉をひそめて鼻を鳴らす。

「こんな悪趣味な部屋を用意するといえば大方予想はつくがな」
「え、誰だと思うの?」
「……今はそんなこと気にするな。それより、今日のことは俺達の胸にしまっとけばいい」

 照れた様子で呟かれた言葉に、私は小さく頷く。確かに今考えても仕方がない。この場は大人しく従うことにしよう。
 意外な形で私のファーストキスは奪われたけど、これは私とブラピにとって大きな前進ともとれる。
 この日を境に、ブラピとの関係はより深いものへと変わっていくことになるのだった――

ソニックの場合

「へぇ~……この部屋の主は随分面白いことを思いつくもんだな」

 途方に暮れる私とは対照的に、ソニックはニヤリと笑みを浮かべてそんなことを言い出す。どこか楽しんでいるといった雰囲気を醸し出す彼に私は思わず声を上げた。

「何笑ってんの! 私達閉じ込められてんだよ?」
「オレ達の仲ならキスくらい簡単だろ?」
「簡単な訳ないでしょ!」

 羞恥心に乗せられるまま声を荒げる私に、彼は更にその悪戯な笑を深めていく。そしてあろう事か、とんでもないことを口にしたのだ。

「わざわざ部屋を用意して条件付きで閉じ込めるってことは、今もオレ達の様子を覗き見てるってことだろ。だったら思いっきり見せつけてやるってのも良いよな?」
「はぁ!?」

 思わず目を丸くする私を他所に、ソニックはゆっくりと距離を詰めてくる。その翡翠色の瞳は獲物を狙うかのように鋭く光っていて、不覚にも胸の奥が高鳴ってしまう。
 そうしている間にも、彼の手がそっと私の頬に触れる。優しく撫でられる感覚に、自然と体が熱を帯び始めた。やがて互いの息遣いすら感じられる距離まで近付くと、突然彼は動きを止めた。
 至近距離を保ちながらも微笑む表情は妖艶な色気を放ち、私を惑わせる。まるで金縛りにでもあったみたいに動けない。

「え、と……ソニック?」
「どうした?」
「どうした? じゃなくて……何、この状況!?」

 彼はそれには答えずに私の頬を撫でていたかと思うと、今度はその手を私の項の方に回していく。これではまるで焦らされているようではないか。
 私の中で湧き上がる羞恥心。同様に吊り上がる彼の口角。いよいよ我慢の限界に達しそうになった私は、今にも爆発しそうなものを発散させるように口を開く。

「ちょっ、ちょっと、もう無理――

 慌てて制止の声を上げるもそれは虚しく、私の唇はソニックのそれによって塞がれてしまった。柔らかく温かい感触に今度こそ思考回路が停止する。
 こうして固まっている私をいいことに、ソニックは啄むような軽いキスを繰り返したり深く吸い付いてきたりと好き放題だ。
 何度も繰り返されるその行為に、私の体からは次第に力が抜けていく。ようやく顔が離れた頃にはすっかり腰砕けになっていた。

「Oops.大丈夫か?」

 ふらついたところをソニックがすかさず支えてくれる。その腕にしがみつきながら、どうにか体勢を立て直す。一言でも言ってやらないと気が済まない。

「もう、あんな激しくしなくたっていいじゃん……!」
「でも、良かっただろ?」

 見下ろしてくる彼の表情は、してやったりという感じで実に楽しげだ。それに彼の言う通り、気持ち良さに浸っていた所があるのは事実だった。
 だからといって、いきなりあんな風にされるのは刺激が強すぎる。抗議の意味を込めて軽く睨んでみるも、むしろ余計に喜ばせてしまったみたいだ。

「So cute! そんな煽るなって」
「違う! そういう意味じゃない!!」

 こうして彼の腕の中で攻防が繰り広げられることになり、結局この部屋を出るのに随分時間がかかってしまったのだった――

1000HIT感謝です! 




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