ピット短編2

Morning glow

observe

 こんにちは、私はピットでもナナシでもありませんよ。ピットの上司、女神パルテナです。今回は目出度く結ばれたピットとナナシの様子を覗き見しちゃおうかと思いまして。
 折角部下の想いが成就したんですから、こちらも少しぐらい楽しませてもらおうかと。さて、ピットを通して見せてもらいましょう。
 あら、早速廊下の掃除をしているナナシを見かけて駆け寄って行きました。お互い乱闘の試合と使用人としてのお仕事がある訳ですが、この短い時間でどんな会話をするのかしら。

「ナナシ、お疲れ様!」
「あ、ピット。お疲れ様」

 あらあら、挨拶しただけなのに二人共顔をほんのりと赤らめてしまいました。本当に初々しいですね。ナナシなんてモップを持つ両手を何度も組み直したりなんかして、なんとも可愛らしい。
 ほら、ピットは照れて頭を掻いている場合じゃありません。こういうささやかな時間にもできることはあるんですよ? でもここでまた助言を送ると文句を言われるでしょうから、密かに楽しませてもらいますけどね。

「あ、あのさナナシ、次の日曜日空いてる……?」

 おぉ、ここでデートのお誘いとはやるじゃないですか。さて、ナナシはどうかしら?林檎よりも真っ赤な顔しちゃって。

「えっと、うん。空いてるよ……?」
「本当!? じゃ、じゃあ一緒に出かけない? 街に美味しいレストランができたってピーチ姫達から聞いたんだ。ナナシの好きなメニューが充実してるって教えてもらって……どうしても一緒に行きたくて、さ」

 勇気を出したのはいいですけど、嬉しさと緊張のあまり早口になってますよ。ナナシも目を細めてとても嬉しそうに頷いています。両者とも頬が緩みきっていて、完全に二人の世界に入ってますね。

「ありがとうピット。今から楽しみ……!」
「へへ……僕も。ナナシと行けるならどんな所でも嬉しいっていうか……」

 あら、言いましたね?それなら今度『〇〇しないと出られない部屋』にでも連れて行ってあげようかしら。その時の二人の慌てっぷりを見るのも面白そうですし……半分冗談ですよ。
 それにしても二人の周囲を纏うこのオーラ。通りかかる人達が思わず視線を向けてしまう程に濃ゆいものなのですが……当の本人達は気付いていないようですね。それも当たり前かもしれませんが。
 あ、このチャイムは……次の試合開始まで時間は残されてないみたいですね。折角良いところだったのに。ナナシは時計を見ながらそわそわし始めましたし、ピットも名残惜しそうにしながらも駆け足の体勢になってしまいました。今日はここまでですね。私もそろそろ準備しなければ。

「あぁ……時間経つの早いね」
「全くだよ。これほど乱闘アイテムのタイマーを持ち込みたいと思ったことは無いや……後1分でもいいから引き伸ばしたいよ」

 ピットったらいつの間にそんなロマンチストみたいな言い回しを覚えたんでしょうか。天使と言えどもやはり男の子ということかしら。ん? ピット、急にナナシに近付いて一体どうしたの……か……。

「え……!? ち、ちょっと!?」
「えっと、お互い頑張ろうっ。それじゃあ!」

 あら、ピットってば最後の最後でやるじゃないですか! 去り際にそんなことをされたら、ナナシは仕事に集中するどころではないですよ。もう、頬を抑えながらその場にへたり込んでしまったではないですか。本当に初心で可愛らしいですねえ。
 彼の勢いや行動力も日々の乱闘の中で磨きがかかってきましたね。今回は頬止まりなのが惜しいところですが、ここまで来たらいずれ唇にする日もそう遠くないかもしれませんね。
 え? その調子でデートも覗き見するんじゃないかって? 大丈夫ですよ、いくらなんでもそこまではしません。と言う訳でピット、当日は頑張ってくださいね。
 おっと、いい加減私もここら辺にしておかなければ。ふふ、天使と人間のカップルなんて中々見られるものではありませんからね。どう進展していくのか、今後もこっそり楽しませてもらうとしましょうか。

 前作でピットが言っていた「静かに見守る」とは、こういうことでした。
(彼自身も気付いていない) 




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