ピット短編6

Morning glow

小ネタ集①

※後半の話にマリオの映画ネタがありますのでご注意。

1

 ある夏の夜。僕は恋人のナナシを連れて屋敷を抜け出し、ある場所を目指して暗夜の森を歩いていた。
 目的の場所は屋敷から然程遠くない距離にあるので、何かがあってもすぐに引き返すことはできる。
 やがて木々の隙間から仄かな光が漏れているのを見つけると、繋がれていた手を軽く引き寄せた。茂みをかき分けて現れた景色に、ナナシから感嘆の声が漏れ出す。

「凄い……屋敷の近くにこんな場所があったなんて」

 開けた視界の中で、小さな川を覆うように無数の小さな光が舞い踊っていた。今は水を飲みに来る獣もなく、川はせせらぎを奏でるだけ。
 ナナシと共に川辺に近付くと、ひとつの光が僕の胸で羽根を休めた。淡い輝きを放つそれは、"蛍"と呼ばれている昆虫だ。
 彼女は瞳を丸くして僕の胸元の蛍を見つめていたかと思うと、すぐにその顔を綻ばせた。

「こっちの世界でも蛍が見られるなんて思わなかった!」
「リンクからこの場所を教えてもらった時は僕も驚いたよ」

 近くにあった平らな岩に腰掛けると、僕らは静かに辺りを眺める。その間も蛍たちは自由に空を泳ぎ回り、まるで地上の星のように幻想的な光景を作り出していた。

「蛍ってさ、こうして成虫になってからの寿命はたった一週間ぐらいなんだって」
「短命なのは有名な話だね。確か成虫になると水分しか摂れないって聞いたことがあるよ」
「僅かな時の中で、自分の種を残そうと精一杯輝くんだよね……」

 ナナシが紡ぐ声には、物悲しげな色が含まれていた。確かに蛍の命は短いけれど、だからこそ一生懸命に瞬く姿がその美しさを際立たせているんだと思う。
 実はナナシと付き合い始めてからというもの、何度も思う事があった。それは――いつまで彼女と同じ時間を歩めるのか、ということ。この憂いは、ナナシが蛍を"儚い"と感じることに似ていた。
 "天使"である僕と、"人間"のナナシ。同じ一日、一ヶ月、一年でも、流れる時間の重みは違う。
 天界の者からしたら、人間の寿命は短すぎる。例え何事もなく長生きできても百年が限界だろう。
 こんなこと、ナナシを好きになった時から頭では理解していた。覚悟だってしてきたつもりだったけど、実際には何一つ出来ていない。
 "今が良ければそれで幸せだから"。その一言に甘えて頭の隅に追いやってきたツケが、今になって僕を苛んでた。
 遠い未来、僕はナナシを見送ることになる。繋がれた手から伝わるこの温もりも、いずれは失われてしまう。摂理からは決して逃れられない。
 今にも消えそうな淡い光に照らされるナナシ。その横顔が、輪郭が、瞬きをする度ぼやけていった――




2
※会話文のみ。マリオ映画のちょっとしたネタバレを含みます!

「ピット、なんだか嬉しそうだね。良いことでもあったの?」
「よく聞いてくれたねナナシ! 僕、遂に銀幕デビューを果たしたんだ!」
「えぇっ、ピット映画に出たの!?」
「そうなんだよ! しかもあのマリオさんと一緒に!」
「凄いじゃん! どんな役? やっぱりマリオさんとダブルで主役とか?」
「たった数秒の"脇役"以下だったがな」
「うわっ、ブラピ! それはナナシには言わない約束だっただろ!」
「お前があまりにも得意気だから黙らせただけだ」
「分かった! 自分が出られなかったからって僻んでるな?」
「ふん! お前の唯一の台詞は"ヤラレチャッタ"だけなんだろ? それでよくナナシに自慢できるものだな」
「二人共もうやめてよ、みんな見てるでしょ! って、パルテナ様……?」
「まあまあ、あの二人は置いといて。一緒にシアタールームでマリオさん達の活躍を観ましょうか。ついでにピットの"勇姿"も」
「は、はあ……」

前半は前から書きたかった話。でもピットは明るい話の方が似合うかも?




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